【反社会的勢⼒の実態と企業リスク #1】不動産会社スルガコーポレーション、業績至上主義が仇に 

業界にはびこっていた反社会勢力との関係を断ち切れず 

現在、企業のコンプライアンスやガバナンスが問われる大きな事件が起こっています。日本では2000年頃を境に、反社会的勢力と、企業の癒着が顕在化してきました。企業は、法令・企業倫理の遵守を徹底するために、専門部署を設置するなど、取り組みを強化しています。しかし、残念ながら、今もコンプライアンス違反のニュースは後を立ちません。 

本コラムでは、反社と関わる企業リスクについて、不動産会社スルガコーポレーションの過去の事例をもとに、次の四つの観点から解説します。 

1)どんな経緯で反社とつながったのか 

2)どうすれば反社とつながらないよう、未然に防げたのか 

3)途中で関係を断ち切れることができたのか 

4)教訓とすべきことは何か 

1)どんな経緯で反社とつながったのか 

不動産業は、歴史的に反社との関わりが多い業界構造があるといわれています。業種の特徴として、最新の物件情報をいかに早く得られるかが最重要なのです。そして、その土地を取得し箱物を建てる。そのようなビジネスモデルが確立していたため、その交渉、いわゆる「地上げ」をスムーズに行うには、反社またはその関係者が絡んでいることがありました。ある種、不可欠ともみえる時代が長く続いていたといえます。 

スルガコーポレーションは、駿河建設株式会社という社名で1995年8月東証2部に上場していました。2000年に株式会社スルガコーポレーションに商号変更しています。 

そして2003年、その後、事件となる不動産業者「光誉実業」に交渉を依頼。この「光誉実業」がフロント企業、つまり反社という認識は、スルガコーポレーションにあったと推測されます。2005年、「光誉実業」の弁護士資格がない者が、スルガコーポレーション所有のビル賃借人に立ち退きを求めたことにより、2008年3月弁護士法違反の疑いで逮捕されました。 
 

2)どうすれば反社とつながらないよう、未然に防げたのか 

どのような企業であれ、経営者の意思次第で、反社と関わらないようにできたはずです。 

当時、スルガコーポレーション事件の前兆のように、反社との関係による不祥事がありました。2002年11月に日本信販が総会屋に利益供与していた事件です。これをきっかけに、反社と関わる不祥事が発覚し、経営破綻に追い込まれる企業が増加しました。 

その後2007年、政府が「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を公表しています。これに伴い都道府県では、暴力団排除条例が施行されることとなりました。この状況により、反社との関わりが一層厳しく取り締まられることとなりました。 

スルガコーポレーションの経営陣は、この社会全体の流れや、コンプライアンスという意味、他社でどういうことが起こっているかなどを鑑みて、自社が堅実経営を目指していくという意識や覚悟がなかったのでしょう。 

企業として、上場を果たし、業績が上がり株価も上っていって、さらに拡大することが優先されたのでしょう。そのため、この業界のビジネスモデルでは、より良い物件情報を他社より早く得られ、その交渉がスムーズに進めるには最適なパートナーだったのでしょう。 

3)途中で関係を断ち切れることができたのか 

不動産業というビジネスモデルでは、業界全体の問題だったと思います。 

スルガコーポレーションは、上場して最高益を出していました。この「光誉実業」との関係がなければ、業績が下がり、さらには株価も下がるだろうと、戻るに戻れなかったのでしょう。業績至上主義が仇となり、自社の健全性を目指す、その意識が経営陣になかったとみられます。また、反社側に弱みを握られていた可能性もあるでしょう。労務問題もありました。 

法改正や、社会の機運を敏感に感じ取って反社と隔絶し、会社を舵とりしていく、という意識や覚悟がなかったのです。不動産業界は、金融機関による多額の融資で箱物を建てられる、というビジネスモデルです。スルガコーポレーションは、金融機関が一気に手を引いたことにより資金繰りが行き詰まって2008年に民事再生法適応を申請し上場廃止になりました。 

4)教訓とすべきことは何か 

反社と関係する企業不祥事は、この頃、取り沙汰された不動産業界3社、アーバンコーポレーション、スルガコーポレーション、アセットマネジメントの頭文字から「USA」と囁かれ語られています。このような社会の流れの中で、スルガコーポレーションは、見せしめにさせられたのではないかということも否めないところです。同社は、2014年3月民事再生手続が終結。2016年1月、新成建設株式会社に商号変更。2023年2月、株式会社Turtle Consultingとなって事業を継続しています。 

不祥事が起こる企業は、著しい業績至上主義であることが特徴とみられます。加えて、時代の流れを察知する意識が希薄であることが多く見受けられます。現在では、取引の際に、反社との関わりを厳しくチェックするようになりましたが、現在も反社がなくなったわけではありません。社会に貢献する堅実で持続可能な企業の発展には、コンプライアンスの持つ意味合いを理解することが欠かせません。加えて、社会、業界、自社の状況を敏感に意識して、時には相当な覚悟と決断が重要であると言えます。