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健全な経済取引を実現するために(前編) #4

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海外におけるリスクの実態を解明する(前編)

 前回のコラムでは、日本におけるリスクの実態について当社基準をもとに7つに分類し、解説しました。今回から前編・後編の2回に分けて、海外におけるリスクの実態を解き明かします。

 まず、前編では目次に記載の「人権デューデリジェンス」と「児童労働」に関して、解説します。

1.人権デューデリジェンス

 人権デューデリジェンス(人権DD)とは、企業が事業活動に伴う人権侵害リスクを把握し、それらの防止・軽減を図り、取り組みの実効性や対処方法について情報を開示する一連の行為です。人権を侵害するリスクには、サプライチェーン上の強制労働や児童労働などがあります。国際連合は、2011年、「ビジネスと人権に関する指導原則」*1の第2の柱として、人権を尊重する企業の責任を定めています。具体的には、「他者の権利の侵害を回避し、発生する人権への 悪影響に対処すること」を意味します。

 企業のグローバル化に伴って、安価な労働力による企業の利益を追求する動きが高まり、人権保護の制度が確立されていない途上国における強制労働や児童労働が多発しました。それらを背景に、英国、フランス、オランダ、豪州では、2015~2019年にかけて、一定規模以上の企業に対し、人権DD やその開示・報告を義務づける法律を導入しています。

 英国では2015年に「現代奴隷法」を制定、続いてフランスでは2017年に「企業注意義務法」を制定し、大企業の人権・環境DDを義務化しました。その後、2018年、豪州では「現代奴隷法」の制定ならびに奴隷労働と人身取引に関する取組の開示を義務化、2019年にはオランダでは「児童労働デューデリジェンス法」(議員立法)が制定されました*2

 これらの流れを受け、日本政府も2020年10月、「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020~2025)を策定し、企業に対する理解・促進と意識向上を図っています。さらに、2022年9月、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」*3が公表され、人権DDの実施を促しました。しかしながら現状、日本における人権DDに対する義務付けはありません。企業自らが、人権DDに対する理解を示し、継続した取り組みが求められています。

*1:参考資料:国際連合広報センター『ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために 』(2011年3月)

*2:参考資料:経済産業省「企業のサプライチェーンと人権を巡る国際動向 」(2022年3月)

*3参考資料:経済産業省(ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省 庁施策推進・連絡会議)「責任あるサプライチェーン等における 人権尊重のためのガイドライン」(2022年9月)

2.児童労働

 児童労働とは、15歳未満(就業最低年齢および義務教育年齢)の労働と18歳未満の危険で有害な労働を指します。ユニセフ(国連児童基金)と国際労働機関(ILO)が発表した報告書『児童労働:世界の2020年の推計、傾向、今後の展望』*4によると、児童労働に従事する5〜17歳の子どもは、2020年時点で約1億6,000万人に上ります。

 児童労働には「最悪の形態の児童労働」と定義付けられる労働があります。健康、安全、道徳面で有害な可能性が高い危険な労働、心身の発達を阻害する労働、人身売買や子ども兵士の徴用、強制労働などです。これに対し、1999年「最悪の形態の児童労働条約(第182号)*5」が採択され、2020年8月、全加盟国(187カ国)が批准しました(日本:2001年に批准)。

 同条約は、ILOの基本条約*6の一つで、奴隷労働、強制労働、人身取引などの最悪の形態の児童労働の禁止と撤廃を求め、武力紛争や売春、ポルノ製造、そして薬物取引などの不正活動、危険有害労働における児童の使用を禁止しています。

 前述のILOが発表した報告書では、児童労働に従事する子どもたちに対する世界的な取り組みの停滞を危惧しています。加えて、「 児童労働は、子どもの教育を阻害し、権利を制限し、将来の機会を制限し、貧困と児童労働の世代間悪循環を引き起こす」と危機感を訴えています。

*4:児童労働:2020年の世界の推計、傾向、今後の展望 – UNICEF DATA(ユニセフ/ILO共同刊行物、2021年6月9日)

*5:1999年の最悪の形態の児童労働条約(第182号) (ilo.org)、国際労働機関

*6:「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」1998年、ILO総会

(〜後編へ)3. 現代奴隷制度・人身取引 / 4.日本版DBS / 5.日本企業の人権リスクに対する取り組みの現状

次回の後編では「現代奴隷制度・人身取引」と「日本版DBS」を解説します。最後に日本企業の人権リスクに対する取り組みの現状を概観します。

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