【KYC コラム】リスク情報収集AI技術解体新書#2

~KYCコンサルティングのコア・コンピタンス(競争優位の源泉)~

#2 野中尋史准教授(愛知工業大学経営学部経営学科)インタビュー

目次

・野中准教授のこれまでの経歴

・「知識マイニング」とは何か

・KYCコンサルティングとどのような経緯、理由で共同開発を始めるに至ったのか

・KYCコンサルティングとの共同開発には、研究者にとってどのような価値があるのか

・共同開発実現までの道のり

・KYCコンサルティングに期待することと野中准教授の未来構想 

野中准教授のこれまでの経歴

 私は、国立大学法人 豊橋技術科学大学(愛知県)電子・情報工学の課程を修めています。当時の人工知能は、まだ産業に応用できる状態ではなく、学術的なテーマでした。人工知能技術を用いた情報の解析に興味があり、高校も高専(高等専門学校)へ進学しました。専門的な知識を習得する中、「人工知能を用いた情報システム技術を社会に応用できる研究がしたい」と考えるようになり、同大学への進学を決めました。

 同大学は高専生徒を8割受け入れる体制があり、編入学者の受け皿を担っています。大学では、量子力学をテーマに研究している先生と出会い、大学修士まで同研究に携わりました。

 卒業後、大学職員として情報処理センターや産学連携の分野に約2年間従事し、産学連携の業務で情報分析や特許の出願などを担っていました。それらに携わる中で人手作業の苦労や限界を感じ、コンピューターを活用して自動化を進めたいと思うようになりました。

 同大学に自然言語処理を研究する増山茂教授(当時、同大学情報・知能工学系教授)の存在を知り、教授のもとで特許文書の解析や実用的なシステムの構築を学びました。さらに、自動化を実現するため、再び大学院博士に入り直し、「言葉をどのように人工知能に解析させるか」をテーマに、現在まで継続した研究を進めています。

「知識マイニング」とは何か

 私は研究の成果として、「社会実装」を目指しています。今ある人工知能を組み合わせたり、工夫したりすることで社会に役立つ技術を生み出したい、と考えているからです。私が「知識マイニング」と名付け、呼んでいることには、「世の中の役に立つ知識を見つけ出し、その中から実社会に有用な知識のみを取り出す」という私の研究思想の意味合いが込められています。

 「知識マイニング」は、一般的にはデータマイニングと呼ばれ、収集された情報の中から傾向や関連性を見いだす分析手法です。分りやすく表現すると、膨大なデータ(情報)の中からお宝を発掘(マイニング)することです。

KYCコンサルティングとどのような経緯、理由で共同開発を始めるに至ったのか

 KYCコンサルティング代表取締役の飛内 尚正氏と共通の知り合いを通じて、KYCコンサルティングさんが提供する犯罪情報システムの存在と提供する目的を知りました。同システムに先端の情報技術を組み込むことで、より社会的に必要性が高く、広い分野でさまざまな用途に活用できるのではないか、と可能性を感じました。

 飛内氏の抱く「作業の効率化を図るために自動化したい」との熱意にも共感できました。自動化するためには、犯罪情報をデータベース化し、言葉を人工知能で解析する必要があります。私が研究で培ってきた知識をぜひ社会実装に役立てたい、との思いから共同開発に合意したのです。

KYCコンサルティングとの共同開発には、研究者にとってどのような価値があるのか

 大学に所属し研究する立場からは、「社会で応用できる」という視点を持つのは難しいことです。研究テーマとなる、実社会で挙げられる課題が研究現場では思い付かないのです。

 私は、「学問は役立たせることが使命」だと思っています。実務現場の意見を拾い上げ、研究することに意義があると考えており、そこに携われたことは学術的に大きな価値がありました。また、犯罪のデータベースは新規性が高く、社会学などの異分野にも応用が期待できるため、学問体系を変えるほどインパクトのあるテーマだと感じます。

 実用化が進むことで社会に大きく貢献できるサービスであると確信しています。実務者とつながりを持ってこそ価値を見いだせるので、KYCコンサルティングさんとの出会いに感謝しています。

共同開発実現までの道のり

 開発当初は、システムの構築に必要なデータを検討したり、データの定義を把握したり、仕様策定(どのようなシステムを構築するか検討すること)に時間を要しました。ある程度それらを見いだしてからも、どのAI(人工知能)モデル(データ解析を行う方法の一つ)を作成するか試行錯誤を繰り返す日々が続きました。AIモデルを作り上げるには、人間が経験を通じて学習する一連の行為を、コンピューターにも施す必要があります。

 コンピューターに言語読解の技術を学習させるには、何千件もの情報を手動で作成する必要があり、その工程に多大な労力と時間を費やしました。あらゆる表現方法や記載の仕方に対応するため、危機管理の専門知識を組み込みながら、容疑者の人名や罪名にマーキング作業を重ねます。その積み重ねによって、コンピューターが傾向を読み取れるようになり初めて自動化できるのです。

KYCコンサルティングに期待することと野中准教授の未来構想

 KYCコンサルティングさんが提供するリスク情報や犯罪情報システムは、コンプライアンスの重要性が増す現代において、非常に社会的意義の高いサービスです。需要の高まりを見据え、危機管理のパイオニアとして引き続き活躍を期待しています。

 私の今後の研究ビジョンは、「知識マイニング」によって抽出した社会に役立つ知識を、社会実装につなげることです。チャットGPT(会話型AIサービス)をブラッシュアップして、さまざまな分野に最適な人工知能を作りたいと動いています。引き続きリスク情報の解析を完全体に仕上げ、社会全体がリスク情報を効率的に活用できる意義ある研究につなげていきたいです。