コンプライアンス経営のための費用は投資か、それともコストか?

企業のコンプライアンス体制を整えるには費用が必要になります。コンプライアンスを強化する体制構築費用は、企業にとって利益を生み出す「投資」ではなく、「コスト」に見えてしまいがちですが、今回はある企業の不祥事発生事例を挙げて、コンプライアンス経営のための費用は「投資」なのか、「コスト」なのかについて考えてみたいと思います。

コンプライアンス経営体制強化のための費用は「コスト」でなく「投資」

コンプライアンス経営を実施する場合、多くの施策を行う必要があり、目に見える「コスト」として計上されます。しかし、これはコンプライアンス経営を目指す会社にとって「コスト」なのでしょうか、それとも「投資」なのでしょうか。答えは、事前に行った施策により危機的事態が発生した際に、発生しうるレピュテーションリスクまでカバーしてくれるので、「コスト」ではなく、会社を守るための「投資」であると言えるのではないかと思います。企業危機管理の専門家である我々の視点では、企業が「投資」と考えてコンプライアンス経営体制に取り組みを行うことで、その「コスト」をベネフィットへ転換できる可能性も秘めた宝箱と捉えても良いとも思っています。

我々が提供するサービスの一つ、契約先などの健全性を確認する行為もまたコンプライアンス経営に向けた費用の一つであると言えます。これらすべてが財務諸表に記載される目に見える「コスト」として計上され、企業の利益を圧迫するものと捉えられがちです。我々は今まで多くの企業が巻き込まれた、あるいは自ら発生させた事件、事故、企業不祥事、社員の不正行為等に数多く対応してきた経験から、コンプライアンス経営のための施策費用を「コスト」と捉え、「投資」と捉えない点に疑問に思うところが多々あります。

コンプライアンス経営のための体制強化にあたって、以下のような費用がかかることが想定されます。

  • 会社のコンプライアンスポリシーを策定する
  • 社員の行動基準を定める
  • 内部通報制度を導入する
  • 情報漏洩を防ぐため管理体制を強化するためのツールを導入する
  • 従業員へのコンプライアンス教育を実施する
  • 事件、事故に備えリスクの移転のために保険に加入する

企業不祥事発生事例から学ぶコンプライアンス経営の重要性

このようにコンプライアンス経営のためには様々な施策を講じ、そこには費用がかかってきます。しかしこの事前対策によって、企業危機管理の不祥事発生時には会社を守ることができるのです。今回は、ある業界で有名な大企業の不祥事を例に考えてみたいと思います。

不正を発生させたのは、社内でも売上構成比が非常に少ない部門でした。わずかな売上の小さな事業を営む一部門が発生させたコンプライアンス違反によって、全社を巻き込む問題になってしまいました。会社における売上比率やビジネスの比重、ステークホルダーの規模の大小に関わらず、企業不祥事というものは全社を揺るがすものに発展する可能性が十分にあります。

不祥事等の発生時における企業危機管理の活動では、初動から収束までのスピードと社内横断的な連携、顧客、行政、マスコミを巻き込んだリレーションが求められるものですが、この会社の場合はスピード感を持って社内連携し、非常に素晴らしい対応されていらっしゃいました。その対応は危機事例が発生した際のお手本のようなものでした。一般的に、事実公開に対する不安の大きさから、悪意はなくとも隠蔽傾向に傾きがちになるのが人の常だと思います。そのような状況では、経営陣や管理者層との調整に悩むことも少なくありませんが、この事例においては対応サポートをした私としても経営陣の意思決定の速さと的確性に正直驚きました。

ツールの正しい運用がコンプライアンス経営強化につながる

本事例の事の発端は、社内に設けられていた内部通報制度で上がった一本の通報からでした。正直、当時の経営陣がこの通報が事実と異なることを願ったのは想像に難くありません。しかしながら内部調査を進めるうちに、この通報が事実であることが判明するまでにそれほど時間はかかりませんでした。経営陣は覚悟を決め、この不正行為、コンプライアンス違反の情報開示等、顧客をはじめとしたステークホルダーへの被害を極小化するための行動を早々に開始しました。社内に対策本部を設け、その本部長に代表取締役が就任、関係各部署、関連子会社の長をはじめ、それぞれの部門がこの問題解決に向け一斉にスタートを切ったのです。対策本部は、顧客への個別対応、行政への報告、マスコミへ向けた会見の実施、第三者委員会の組成による詳細な調査と不正行為発生の原因追究、また再発防止の策定などを指揮し会社全体が奔走しました。

今回の事例は、この企業が設けていた制度を利用して、内部通報されたことによって発覚しました。社内における不正発覚時に通報できる内部通報制度の整備や制度の社内周知が十分にされていなければ、企業存続が危ぶまれる大変な事態になっていた可能性があります。内部通報を受けた総務部門は内部調査に動いたのは言うまでもありません。結果として、この会社は主要な経営陣が引責辞任、被害を受けた顧客への対応費によって、好調だった部門の利益は相当に圧迫されました。対策本部の対応期間は長期間に及び、事業全体へのマイナスの影響も長引きました。この会社の場合、内部通報制度が機能していたことが幸いし、社外に流出することなく大きな問題となる前に社内での初動対応を開始できたのが不幸中の幸いでした。

事業的なインパクトもさることながら、この会社が社会から受けた指弾、いわゆるマイナスイメージにより損失は試算が出来ないほど大きなものであったと思います。実際に目に見える「コスト」としての対応費用が財務諸表に記載される費用はさることながら、他の部門が間接的に受けた将来的な売上の減、そして目に見えないマイナスイメージ流布によるレピュテーションによる損失費用を足すと、この企業が実際に受けた被害総額は計り知れないものになったであろうことは容易に想像できます。今回の事例はあくまでも一例であり、このように内部通報制度によって発覚した企業の不祥事や不正は近年枚挙に暇がなく、その後企業が背負うダメージも非常に大きなものと言えるでしょう。やはり内部通報制度の整備化に向けた「投資」を行うことは、企業のコンプライアンス経営の実現のためにも、また被るダメージを最小化させる備えのためにも必要であると言えるでしょう。

我々の提供している様々なコンプライアンスチェックのツールも、適正な費用で、正しい運用をすることにより将来起こる可能性のあるリスクを最小化することが可能になります。ここで重要なのは、上述の内部通報制度の事例の様に、形式要件やコスト偏重による制度自体の形骸化を防ぎ、制度自体、運用方法自体が健全に活用されていることです。会社の数だけ制度の運用方法や費用のかけ方は千差万別です。正しい運用を実現するコンサルティングもあわせて提供していますので、ぜひご活用いただきたいと思います。