契約書に必須の暴力団排除条項、設計は「5原則」「3層構造」で
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企業の反社リスク管理は「チェック(入り口の確認)」と「契約(出口の条項)」の2輪で機能します。事前の審査をどれほど精密に行っても、契約書に実効的な暴力団排除条項(以下、暴排条項)がなければ、事後的な関係遮断が困難になります。逆に、契約書に厳格な条項を盛り込んでも、入り口のチェックが甘ければ、条項を発動する機会すら得られません。
この記事では、法務担当者が直面する「過剰でも過少でもない、適切な厚み」の設計指針を契約書への掲載を前提に提案していきます。
暴排条項設計の5原則
暴排条項を設計する際は、以下の5原則を基軸とします。
1. 明確性—あいまい語を排除する
反社会的勢力(以下、反社)の定義は、契約書内または別紙で明確に記載します。
具体的には、「暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団その他これらに準ずる者」といった列挙が必要です。
「準ずる者」のような包括文言は解釈の余地を残しますが、裁判例や警察庁・金融庁の定義文書と整合させることで、恣意(しい)的運用のリスクを回避できます。あいまいな表現のまま放置すると、解除時に「該当性が不明確」として紛争化します。
ポイント
属性(暴力団員等)と行為(不当要求、威力利用、偽計)の2軸で定義し、いずれかに該当すれば発動要件を満たすと明記します。これにより、形式的には反社に該当しなくても、反社的行為に手を染めた者を実質的に排除できます。
2. 即応性—無催告解除を原則化する
反社関係が判明した場合、催告期間を置くことは関係継続を意味し、リスクを拡大させます。
契約書には「何らの催告を要せず直ちに解除できる」と明記し、即時遮断を可能にします。
さらに重要なのは、解除判断が確定するまでの中間措置です。疑義が生じた段階で履行を一時停止し、追加調査の時間を確保できるようにします。この措置がないと、白黒がはっきりするまで取引を継続せざるを得ず、リスクにさらされ続けることになります。
ポイント
「疑義が生じた場合、甲は相手方に通知の上、履行を停止し、支払いを留保できる。調査の結果、該当しないことが確認された場合、速やかに履行を再開する」という段階的運用を明記します。これは相手方への慎重な配慮と、自社のリスク管理の両立を図るものです。
3. 波及性—関連契約の同時遮断を考慮
取引先が直接的には問題なくとも、その下請け先・再委託先が反社関連であれば、間接的に資金が流れます。
契約書には、関連契約における遮断措置(解除・交代要求)を相手方に義務づける条項を盛り込みます。相手方が正当な理由なく遮断措置を拒否した場合、主契約自体を解除できると明記することで、波及的な関係遮断を実効化します。
特に建設業や製造業など、多層的な下請け構造を持つ業種では、この波及措置が不可欠です。
ポイント
「相手方は、その委託先・下請け先が反社に該当することが判明した場合、速やかに当該契約を解除し、代替措置を講じる。正当な理由なくこれを拒否した場合、甲は本契約を解除できる」と記載します。これにより、取引先に対して実効的な管理義務を課すことができます。
4. 整合性—誓約書・約款・社内規程の統一
契約書本体、取引開始時の誓約書、基本約款、社内の委託先管理規定で、用語・定義を統一します。
一つの文書で「暴力団等」、別の文書で「反社会的勢力」と表記が揺れると、適用範囲の解釈で混乱が生じます。
証跡運用(反社チェックの記録、誓約書の取得、条項発動時の通知)と一体化し、監査時に一連の流れを説明できる体制を構築します。文書間に整合性がないと、監査や訴訟の際に無用な争点が生じます。
ポイント
社内規定に「標準暴排条項」を制定し、契約書作成時にはこのテンプレートを必ず組み込むルールを徹底します。法務部門が標準条項を管理し、各事業部門はこのテンプレートを使用させる運用が効果的です。
5. 比例性—リスクに応じた段階設計
全ての契約に最大限の条項を盛り込むのは、過剰であり相手方の負担も大きくなります。
業種(建設、金融、エンターテインメントなど)、取引規模(少額・大口)、地理的要因(暴力団排除条例の厳格地域)、機密性(個人情報・営業秘密)に応じて、ベースライン・強化・厳格の3層構造で設計します。
ポイント
低リスク取引にも最低限の表明保証と無催告解除は必須とし、中リスク以上で波及措置や定期チェック協力義務を追加します。リスク評価は定性的判断だけでなく、取引金額のしきい値や継続期間など、定量的基準も併用することで運用の明確性を確保します。

契約書への記載は「リスク別」に3層で
1. ベースライン(全契約に必須)
全ての契約に盛り込むべき最小限の条項です。これを欠く契約は、暴排体制の「穴」として監査で指摘されます。
これらの条項は、どれほど少額・短期の契約であっても必ず入れるべき最低ラインです。条項がなければ、反社該当が判明しても契約解除の法的根拠を欠き、相手方から損害賠償請求を受けるリスクがあります。
条文例
乙は、自己が暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団その他これらに準ずる者(以下「反社会的勢力」という)に該当しないこと、および反社会的勢力との関係を有しないことを表明し、保証する。乙が本条に違反した場合、甲は何らの催告を要せず直ちに本契約を解除できる。
2. 強化(中〜高リスク取引)
取引金額が大きい、継続期間が長い、下請け構造がある、機密情報を扱うなどの場合に追加します。
条文例
乙は、その委託先または下請け先が反社会的勢力に該当することが判明した場合、速やかに当該契約を解除し、代替措置を講じるものとする。乙が正当な理由なくこれを履行しない場合、甲は本契約を解除できる。甲は、乙または乙の関係先に反社会的勢力該当の疑義が生じた場合、乙に通知の上、履行を停止し、支払いを留保できる。
3. 厳格(高リスク・規制業種)
金融、建設、警備、産廃など、暴排条例や業法で厳格な対応が求められる業種、または官公庁取引で追加します。
条文例
乙は、甲が必要と認める場合、反社会的勢力との関係についての定期的または随時の確認に協力し、本人確認書類その他必要な資料を提供するものとする。乙の役員または主要株主に変更があった場合、速やかに甲に通知するものとする。甲は、必要に応じて警察等の公的機関に照会を行うことができ、乙はこれに協力するものとする。
注意点
過大な違約金条項や無制限の調査協力義務は、相手方の負担が大きく、かえって契約締結を拒否される原因となります。比例性を維持し、必要な範囲に限定します。厳格レベルは、法令上の要請がある場合や、レピュテーションリスクが極めて高い取引に限定すべきです。

反社チェックとのかみ合わせ—入り口運用の実効化
契約書の条項が機能するには、入り口の反社チェックが適切に実施され、証跡が残っている必要があります。チェック結果は「問題なし」「追加確認必要」「該当または高い疑い」に区分します。
追加確認が必要になる場合には、判断基準を社内規定に明記し、「同姓同名の別人」「過去の関係が既に解消」などの除外根拠も記録に残します。
証跡管理
反社チェックの実施記録、検索語句、データベース照合日時、画面キャプチャ、決裁ログ、相手方への通知・受領記録を一元的に管理します。監査時に「いつ、誰が、どのように確認したか」を即座に説明できる体制を構築することが、条項の実効性を支える基盤となります。
総まとめ「暴排条項はどの程度まで記載すべきか」
暴排条項は過剰でも過少でもリスクになる
・過剰条項は相手方の反発を招く
・過少条項は遮断遅延と信用毀損(きそん)につながる
定義の過度な拡張や過大な違約金は紛争化のリスクがあり、波及措置の欠落や定義の不明確さは実効性を損ないます。
レビュー時のチェックポイント
法務担当者が契約書をレビューする際は、以下を確認します:
□ 定義の明確性 – 具体的列挙があるか
□ 無催告解除の明記 – 催告なく解除できるか
□ 波及措置の有無 – 下請け先の遮断義務があるか
□ 履行停止・支払い留保 – 疑義発生時の対応が規定されているか
□ 証跡との整合 – 誓約書・社内規定と用語が統一されているか
□ リスクに応じた比例性 – 過剰でも過少でもないか
契約書の暴排条項は「誰に、いつ、どう効かせるか」を明示し、入り口の反社チェックと証跡で効力を裏付けるものです。法務担当者は、比例性を維持しながら、監査に耐える実効的な条項設計を実現してください。
【参考・出典】
