反社チェックと警察・暴追センター連携、ポイントは個人情報保護
- 警察
- 法務
- リスクマネジメント
- 基礎知識
- コンプライアンス
- 反社チェック

反社会的勢力(以下、反社)との関係遮断は企業の社会的責務です。2007年に政府が策定した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」では、反社を「暴力、威力、詐欺的手法を用いて経済的利益を追求する集団・個人」と定義し、属性要件(暴力団・関係企業・密接交際者)と行為要件(不当要求・威迫・信用き損)の両面から捉えることを求めています。暴力団員だけでなく、密接交際者や影響下にある企業も排除対象です。
特に上場企業やベンチャー企業にとって、反社チェック体制の整備は資金調達や事業継続の生命線となります。東京証券取引所の上場審査では体制の実効性が厳格に審査され、ベンチャーキャピタルや金融機関も反社チェックの記録を重視しています。密接交際が判明すれば全国47都道府県で制定済みの暴力団排除条例により、契約解除や入札参加停止、許認可取り消しなどのペナルティーを受ける可能性があります。
こうした制度環境の中で企業防衛の要になるのは、警察や暴力追放運動推進センター(暴追センター)との適切な連携です。当記事では、反社チェック時の連携についての実務的な方法と留意点を解説します。
警察・暴追センターと連携するには
警察・暴追センターへの照会は「最終手段」であり、無制限に情報提供を受けられるものではありません。この前提を踏まえ、各機関の役割と活用方法を整理します。
警察庁の通達「暴力団排除等のための部外への情報提供について」では、警察が保有する暴力団情報の外部提供基準が定められています。提供の可否は「公益目的」と「組織的手続き」に基づき、事案の性質・疑義の具体性・利用目的の正当性を総合的に判断します。情報提供は「事案に応じた最小限・可能な範囲」に限定され、企業が「念のため全取引先を照会したい」といった包括的要請に応じることは通常ありません。具体的な疑義、緊急性、被害防止の必要性が認められる場合に限り、警察は情報提供を検討します。
一方、暴追センターは全国47都道府県に設置され、反社に関する相談・講習・モデル契約条項の提供を無料で行います。各センターは企業向け相談窓口を整備し、個別事案の助言、契約書ひな型の提供、不当要求対応の訓練を実施します。匿名性にも配慮されているため、具体的な疑義の発生前から予防的相談の窓口として活用できます。
実務では、警視庁を含む各都道府県警察が、契約相手の関係性情報を事案に応じて可能な範囲で提供します。相談時には、以下を事前に準備する必要があります。
1.相談者の企業情報
照会を依頼する企業の同定情報と窓口情報を記載します。
企業名/所在地/代表者名/担当部署・担当者名/連絡先(電話・メール)/事業概要(主要事業・上場区分等)
2.照会対象の特定情報
対象者(個人・法人)を一意に特定できる情報を記載します。
個人の場合
氏名/生年月日/住所/通称・旧姓/別名義
法人の場合
法人名/所在地/代表者名/法人番号/事業内容/主要役員名
3. 疑義の具体的根拠
照会を必要とする合理的な疑義の出所と証拠性を記載します。
報道(媒体名・掲載日・URL)/行政処分(処分庁・告示日・文書番号)/裁判例(事件番号・判決日)/登記情報(取得日・事項)/取引経緯(日時・記録)/その他客観資料
4.情報の利用目的と範囲
提供情報の使用目的と社内・対外の利用範囲を明確化します。
明確化する目的
被害防止/契約適合性確認/内部リスク評価
明確化する範囲
参照部門(法務・反社対応・経営)/保存媒体/共有禁止先の明記/目的外利用の禁止
5.守秘管理計画
取得情報の保護・アクセス・記録・廃棄までの管理方法を記載します。
アクセス制限(Need to Know)/ログ管理(アクセス者・日時・目的)/保管期間と廃棄手順/監査頻度/開示請求対応方針/漏えい時の報告・懲戒フロー

照会の実務と個人情報保護の両立
ここで注意が必要になるのは、個人情報の取り扱いです。本人の同意なく第三者に照会してよいのか、取得した情報をどう管理すべきかについて、明確な方針を定めます。
まず法令上の定義を整理します。個人情報保護法第27条第1項第2号は、生命・身体・財産の保護のために必要で、本人の同意取得が困難な場合には、目的外利用および第三者提供を認めています。この規定は「例外事由」に当たる法的根拠です。
次に実務上の運用を区別して示します。反社チェックは、企業の財産保護、取引の安全確保、従業員の生命・身体保護を目的とするため、上記の例外事由に該当し得ます。特に、被害防止の緊急性がある場合や、本人への告知により証拠隠滅のおそれがある場合は、本人同意なしでの照会を検討しましょう。
ただし必要最小限の原則を厳守します。照会の対象者・項目・期間を厳格に限定し、誤照会や過度照会を抑制しましょう。取得した情報は保管期間をあらかじめ定め、期間の経過後は速やかに廃棄します。
法令上は企業が継続的に保有し、本人からの開示等請求の対象となる個人データを指す「保有個人データ」の扱いについても、法令上の概念と実務上の判断を分けて整理しましょう。実務では、反社チェックで得た情報のうち、確定的に反社会的勢力該当と判断できるものは、保有個人データの対象外として取り扱える場合があります。一方で、疑義段階の情報は本人の権利保護の観点から慎重に判断し、開示請求への対応方針を事前に明確化します。
名誉毀損(きそん)や差別の回避も不可欠です。風評、外見、出身地、交友関係といった要素のみで反社と断定することは避け、複数の客観的証跡に基づき総合判断を行います。疑わしいというだけで確定的な結論を出さないように留意しましょう。
誤同定が発生した場合の是正手順として、本人からの申し出窓口を設置し、誤認が判明した時点で速やかに記録を訂正または削除します。これは企業の社会的責任であるとともに、法的リスクの回避に直結する必須措置です。
社内管理では、反社チェック情報へのアクセス権限を反社対応部署および法務部門に限定し、アクセス者・日時・目的のログを管理します。定期的な監査により管理の実効性を担保し、漏えい時の報告・懲戒の基準を就業規則に明記して、守秘義務の徹底を図ります。

契約条項の整備と継続モニタリング
警察や暴追センターからの情報提供には構造的な限界があります。暴力団組織の不透明化、フロント企業の多層化、名義貸し、休眠会社の乗っ取りなど、偽装手法は年々巧妙化しており、警察が把握する情報も断片的で完全な照合は不可能です。したがって、契約条項による事後対応の仕組みを整備しておくことが不可欠です。
契約書には、反社排除条項、表明・確約条項、虚偽申告時の無催告解除条項、損害賠償・反訴禁止条項を標準搭載しましょう。反社排除条項では相手方が反社会的勢力(暴力団、関係企業、密接交際者、準ずる者)に該当しないことを定め、表明・確約条項では現在および将来にわたり自らおよび役員・主要株主が反社に該当しないことを確約させます。虚偽申告時の無催告解除条項では、表明・確約違反や合理的疑義が生じた場合の無催告解除権を明記します。
さらに、契約締結後も継続的なモニタリングが必要です。年次、契約更新時、イベントドリブン(役員変更、増資、委託範囲拡大)のタイミングで再チェックを実施し、四半期ごとに対象先の公開情報をスクリーニングします。重大ネガ検知時は即座に反社対応部署へエスカレートし、契約解除または関係遮断を判断します。代替先の即応体制も整備しておくことで、事業への影響を最小限に抑えます。
実務で使える「反社チェック体制」5つの対策
警察・暴追センターとの連携は、反社チェック体制の重要な要素ですが、万能ではありません。情報提供は「事案性・公益性・最小化」の原則に基づき、具体的な疑義がある場合に限られます。2022年から2025年にかけて警察庁や各都道府県警察が公表した方針では、具体的被害や緊急性がない包括照会は原則対象外とされています。
したがって、警察や暴追センターの支援を最大限に生かしつつ実務で使える反社チェック体制の構築には、予防・検知・対応を連動させ段階的な対策を組み合わせた設計が必要です。
1.公開情報の一次スクリーニングと記録
新聞・官報・行政処分・裁判例・登記を横断し、ネガティブキーワードで検索。検索日時・検索式・ソースURLを案件IDでひも付けて記録します。
2.平時からの外部連携の整備
暴追センター講習や地域協議会への参加、連絡網の整備で関係構築を進め、有事の際に円滑に連携できる体制を作ります。
3.契約条項の標準搭載
反社排除、表明・確約、無催告解除などの条項を契約書に標準搭載し、再発見時の迅速な遮断を可能にします。
4.継続モニタリングの運用
定期スクリーニングとイベントドリブン再チェックを組み合わせ、早期発見・迅速対応を実現します。
5.社内統制・守秘管理の強化
承認ルート、アクセス制限、ログ管理、漏えい時の懲戒基準を整備し、社会情勢・法改正に応じて継続的に見直します。
反社チェックは継続的な改善と運用が求められる取り組みです。経営層の主導の下、全社で反社排除を徹底し、企業価値の向上と社会的責任の履行を両立させていきましょう。
【参考・出典】
