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施行から1年、フリーランス法の「契約・運用・リスク管理」を完全ガイド

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2024年11月施行のフリーランス・事業者間取引適正化等法(以下、フリーランス法)は、フリーランスとの契約や報酬、ハラスメント対策など取引実務のルールを大きく変えました。施行の背景にあるのは、フリーランスの増加とともに顕在化した契約トラブルや未払い、ハラスメントなどの課題です。

当記事では、フリーランス法の要点とリスク、企業に求められる対応を整理していきます。

なぜフリーランス法が必要だったのか

近年、フリーランスとして働く人が急増し、企業と個人事業主の新しい関係が社会に広がってきました。一方で、フリーランスの約30パーセントが「報酬の遅延や未払い」を経験していることが厚生労働省の調査(2024年)で示されており、トラブルの増加が確認されています。

こうしたトラブルの背景と見られているのは、雇用契約で働く従業員と業務委託契約で働くフリーランスの間にある「契約形態や働き方のギャップ」です。同じ企業の同じプロジェクトで働いていても、従業員は企業の指示に従って働きます。時間や労働量に応じて報酬を受け取るのに対し、フリーランスは働く場所・時間・進め方を自ら決めます。対価は、成果物やサービス、または工数・時間に応じて受け取ります。

企業がフリーランスに業務を委託する場合は、従業員と同じ感覚の管理や一方的な指示を避け、法令に則った実務対応が必要です。契約内容のあいまいさ、ハラスメント、一方的な契約解除といった事象は、トラブルの主因になりやすい点に注意してください。

こうした課題への対策として制定されたのが、フリーランス法です。業務を委託する企業に対し「契約条件の書面明示」「業務完了後原則60日以内の支払い」「ハラスメント防止」「契約解除時の事前予告・理由開示」を義務付けています。

従来のあいまいな運用は通用しないため、契約と運用の両面での見直しと徹底が求められます。

フリーランス法の基本的な内容

フリーランスと結ぶ業務委託契約には、契約条件の明示を義務付けています。

契約項目
現場が合意した内容の記載
注意点(2024年、厚生労働省ガイドライン)
業務内容
必須
あいまいな表現はNG
報酬額
必須
成果物単価・支払い方法も明記
支払い時期
必須
原則60日以内
業務場所
必須
拘束性明記は労働者性(偽装請負)リスク
契約期間
必須
自動更新条項の有無も明記

契約条件の書面明示は電子交付も可能です。報酬は業務完了後、原則60日以内に支払います。ハラスメント防止措置や契約解除時の事前予告・理由開示も義務化されました。契約条件があいまいなまま業務を始めると、成果物の範囲や納期、報酬の支払い時期などで認識のずれが生じやすくなります。法令で明示を義務付けることで、双方の認識をそろえ、未然にトラブルを防ぐ狙いです。違反時には行政指導・命令・企業名公表などの段階的な行政対応が取られます。所管は公正取引委員会および厚生労働省です。

「実務ポイント」管理部門編

フリーランスへの業務委託では、「自社の従業員と同じように働いてもらえる部分」と「働いてもらえない部分」が明確に分かれています。総務・経理・人事・法務などの管理部門は「契約書を作成しているから安心」と考えがちですが、実際にフリーランスと一緒に働くことになる事業部門での運用ミスに注意しましょう。企業全体のリスクにつながることがあります。

実際に厚生労働省の啓発事例(2024年)でも「トラブルの温床」と指摘しているのが、事前に行うべき管理部門と事業部門とのすり合わせ不足です。管理部門の油断で事業部門の運用が追いつかず、結果的に法令違反となる例も少なくありません。自社の従業員と同じように働いてもらえるところ・もらえないところは明確にし、社内で共有しましょう。

自社の従業員と同じように働いてもらえるところ

業務内容の明確な指示・成果物の要求

フリーランスにも、業務内容や成果物の品質・納期などは明確に伝え、期待値を共有してもらえます。従業員と同様に「この業務をこの期限までに仕上げてほしい」と依頼できます。

成果物の検収・フィードバック

納品物の検収や修正依頼、業務の進捗(しんちょく)確認などは、従業員と同じように行えます。

自社の従業員と同じように働いてもらえないところ

勤務時間・場所の拘束や細かな指示

勤務時間や場所を細かく指定したり、日々の業務手順まで詳細に指示したりはできません。

人事評価・昇給・福利厚生の適用

フリーランスに従業員向けの人事評価制度や昇給、福利厚生(社会保険・有給休暇等)を適用してはいけません。契約内容に基づく報酬のみを支払います。

「実務ポイント」事業部門編

事業部門の「毎日出社してもらいたい」「納期遅延が不安なので細かく指示したい」といった気持ちは理解できます。しかし従業員と同じような雇用管理や一方的な指示を行うと、実態として「労働者性」が認められ、フリーランス法制定以前から適用される労働基準法などの労働関係法令の対象となるリスクがあります。実務では誤解や慣習から、この線引きがあいまいになりがちでした。

こうした「なぁなぁ」的な運用はすでに通用しなくなっています。「自社の従業員と同じように働いてもらえるところ・もらえないところ」に沿って運用を見直してください。

対応を誤った場合のリスク

フリーランス法・労働基準法などに抵触

労働基準監督署がフリーランスの働き方に「労働者性」を認めたり、フリーランスとの契約が「偽装委託」「偽装請負の強制」と判断したりすると、行政指導や命令、企業名の公表などのペナルティーにつながります。報酬遅延や不当な契約解除、ハラスメントなども同様です。

実際の失敗例

納期を守らなかったので、即日契約解除を通告したところ、事前予告・理由開示がなかったためトラブルに発展した。(2024年、厚生労働省啓発事例)

業務の進め方を毎日細かく指示したところ労働者性が疑われ、労働基準監督署から問い合わせがあった。(同)

判断・行動例
法令適合可否
トラブルリスク
勤務時間・場所の指定
NG
労働者性・偽装請負リスク
細かな業務指示
NG
ハラスメント認定も
成果物・納期の明示
NG
契約外要求はNG
進め方の口頭合意のみ
NG
書面化必須

FAQ・チェックリスト(総務・経理部門編)

Q1. フリーランスとの契約書はどこまで詳細に作る必要がありますか?

A1. 業務内容、報酬額、支払い時期、業務場所、契約期間を必ず明記してください。トラブル防止のため、できるだけ具体的に記載しましょう。

Q2. 報酬の支払期限はどう管理すればいいですか?

A2. 業務完了後、原則60日以内に支払う必要があります。経理システムやスケジュールで管理し、遅延が発生しないよう注意してください。

Q3. ハラスメント防止措置は何をすれば十分ですか?

A3. 相談窓口の設置や、社内規定・方針の周知が求められます。2024年の厚生労働省のガイドラインやチェックリストを参考に、対応体制を整えてください。

Q4. 契約解除の際、どんな手続きが必要ですか?

A4. 事前にフリーランスへ予告し、解除理由を説明することが義務です。解除通知方法も契約書に沿って運用してください。

Q5. フリーランスから報酬の遅延や未払いを指摘された場合は?

A5. すぐに事実を確認し、速やかに支払い手続きを進めてください。やり取りの記録も残しておきましょう。

Q6. 法律やガイドラインが変わった場合、どう対応すればよい?

A6. 厚生労働省や公正取引委員会の最新情報を定期的に確認し、契約書や社内規定もアップデートしてください。社内研修も随時行いましょう。

Q7. ハラスメント相談があった場合の初動対応は?

A7. 相談内容を丁寧に聞き取り、事実関係を確認したうえで、社内規定やガイドラインに沿った対応を速やかに行ってください。

FAQ・チェックリスト(事業部門編)

Q1. フリーランスに「毎日出社してほしい」「この手順で進めてほしい」と頼んでもいいですか?

A1. 勤務時間や場所の拘束、細かな業務指示はできません。成果物や納期を中心に依頼し、進め方はフリーランスに任せましょう。

Q2. フリーランスとのトラブルは、誰に相談すればいいですか?

A2. まずは社内の管理部門などに相談してください。社内で解決できない場合は、厚生労働省の相談窓口も利用できます。

Q3. 途中で契約を解除したい場合、その場で通告していいですか?

A3. その場で突然通告するのは避けてください。契約書に定めた手順に従い、必ず事前に予告し、解除理由を説明します。急な解除や説明のない解除はトラブルの元になるため注意しましょう。

Q4. 契約書の内容が分からないときはどうすればよい?

A4. 必ず管理部門に確認してください。現場だけで判断せず、企業全体で情報共有を徹底しましょう。

Q5. ハラスメントを防ぐために現場でできることは?

A5. 言動や指示が一方的にならないよう配慮し、困りごとや相談があれば早めに社内の相談窓口へ連絡しましょう。

Q6. フリーランスに業務の進め方を細かく確認したいときは?

A6. 進め方の確認はできます。ただし強制や一方的な指示は避けましょう。成果物と納期を明確にし、進み具合の報告を求める形でコミュニケーションを取りましょう。

Q7. フリーランスが複数の企業と取引している場合、うちの業務を最優先してもらえますか?

A7. フリーランスは独立した事業者ですから他の取引先との兼業も自由です。優先順位や納期は契約時に明確に合意しておくことが大切です。

施行から1年、フリーランス法の今後

「フリーランスとどう接すればよいのか分からない」「従業員と同じように管理していいのか不安」「現場で判断を迫られて困った」……

管理・事業部門とも現場では、フリーランス法の施行をきっかけに迷いや戸惑いがむしろ大きくなっているのが現実かもしれません。だからこそ企業に求められるのが、「契約を明確にする」「運用を徹底する」「リスクを管理する」という3点を同時に満たす体制づくりです。フリーランスの専門性を長期的なパートナーシップとして取り込めば実務基盤の強化にもつながります。

管理部門は契約・支払・相談体制を整え、事業部門は現場運用を標準化し、両者が最新ガイドラインの更新を継続的に反映することで、企業の信頼と競争力を高める「実務としてのコンプライアンス」を確立できます。

制度の動向を常時ウオッチし、社内研修やFAQのアップデートを通じて「なぁなぁ運用」から完全に脱却することが、フリーランス法施行から2年目に向けての最重要課題だといえます。より良い取引環境の構築に向け、主体的に行動していきましょう。