• 反社チェック

企業を守る定期スクリーニング。単発チェックから運用への転換ステップ

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企業経営のリスク環境は年々複雑化しています。企業の社会的責任を果たすためにも、取引先や関係者が反社会的勢力(以下、反社)と無関係かを確認する「反社チェック」が求められています。

注意したいのが、1回限りの単発や、散発的に行う反社チェックでは、グローバル化やデジタル化によって絶えず変化する取引先や関係者のリスクに対応できないという点です。「定期スクリーニング」という仕組みを構築し、反社チェックを定期的に行う必要があります。

この記事では、定期スクリーニングの必要性や実践方法、課題、FAQ、報道事例、チェックリストまで、最新の知見と実務ポイントを盛り込み、企業のリスク管理体制強化に役立つ情報を提供します。

なぜ定期スクリーニングが必要なのか?

社会・規制の変化に応じて企業が抱えるリスクは常に変動します。取引先や関係者は、役員交代や株主変更、不祥事や行政処分、反社との関与など、新しいリスクを持つことがあります。これらを見逃さないためにも定期的なチェックの仕組みが必要です。

「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(2007年、法務省)や各都道府県の暴力団排除条例、証券取引所の上場審査基準、金融機関や業界団体の自主規制など、企業には継続的なリスク管理が求められています。一般的に上場企業やIPO準備企業には、定期的なコンプライアンスチェックが求められます。未実施の場合、不利益につながる可能性があります。

マネーロンダリング対策を推進する国際組織「FATF(金融活動作業部会)」も継続的な顧客管理やリスク評価の強化を求めています。日本企業はグローバル基準への対応が必要です。企業の社会的責任(CSR)やレピュテーションリスク対応も不可欠で、反社との関与が発覚すれば、企業の信用は大きく毀損され、取引停止や倒産につながることもあります。

早期発見・未然防止の本質と実務メリット

定期スクリーニングの本質は「早期発見」と「未然防止」です。取引先や関係者の状況は常に変わるため、情報を継続的にアップデートし、リスクを素早く検知することが重要です。契約後に新たなリスクが発覚しても、迅速に対応すれば被害を最小限に抑えられます。

定期スクリーニングは、内部統制やガバナンス強化、透明性向上にもつながります。社内体制を整え、リスク評価を継続的に行い、チェックの仕組み化や研修・マニュアルの整備で、組織全体のリスク感度を高めましょう。

こうやって進める!定期スクリーニングの実施ステップ

定期スクリーニングは、対象範囲の設定、情報収集、評価・分析、対応策の実施という一連のプロセスで構成されます。

1.対象範囲の設定

取引先企業だけでなく、代表者・役員・主要株主・グループ会社・関係会社など、リスクが波及する可能性のある広範囲を対象とします。企業の規模や業種によっては、取引先の取引先(KYCC:Know Your Customer’s Customer)まで調査対象を拡大することもあります。

2.情報収集

公式資料や新聞・ニュース記事など複数の情報源を活用します。社内データベースや外部専門機関への照会も有効です。情報は定期的にアップデートしましょう。最新の状況の把握は必須です。SNSなどインターネット上の情報を補助的に活用することもあります。

情報源の種類
具体例
公式資料
警察庁・警視庁・道府県警・暴追センター・官報・裁判例・行政処分情報 など
新聞・ニュース記事
全国紙・地方紙・業界紙・NHK など

RPA型ツールの注意点

RPA型ツールは、インターネット上に公開されているニュースや記事を自動で拾ってくる仕組みです。古い記事が削除されていてヒットしない、名前の誤記(同姓同名や別表記)で見落とす、関係ない人の記事を拾ってしまう(誤検知)といったリスクがあります。特に一斉チェックの際、過去にヒットした記事が再度検出されることも多く、無駄なチェックが増える傾向です。

こうしたリスクに備え、データベース型ツールや公式資料も参照しましょう。新聞・ニュース記事は別の情報源として整理し、公式資料とは区別します。検出された名前を人が目視確認するなど補完的なチェック体制の整備も重要です。ただし「人の目によるダブルチェックが不可欠」というわけではありません。業務効率や企業の体制に合わせ、リスク情報のカテゴリ別で対応方法についてのガイドラインを策定しておきます。

特にRPA型ツールの場合、ヒットした情報の全てに同じ労力をかけない効率的な体制づくりが求められます。まずはリスクの高い情報や要注意案件に注力して同一性調査や追加確認を行うなどの運用ルールやフローを事前に整備することで、現場の負担を抑えつつ、見落としや属人化を防ぐことができます。

データベース型・新聞記事データベースの活用

データベース型ツールや新聞記事データベースは、参照する期間を絞れるため過去の不要な情報を除外しやすく、効率的な運用が可能です。一斉チェックで工数を削減したい場合は、こうしたツールの活用も検討しましょう。

3.頻度の決定

定期スクリーニングの頻度は、企業の規模や業種、リスク評価に応じて決定します。一般的には年1回または四半期ごとに実施するケースが多いですが、リスクが高い取引先や重要な関係者については、より頻繁なチェックが求められる場合もあります。

4.評価・分析

収集した情報を基に、リスクを評価します。法令違反や行政処分、反社との関与など、企業にとって重大なリスクが認められる場合は、速やかに対応策を検討しましょう。評価は、客観的な基準と社内ルールに基づいて行うことが求められます。

5.対応策の実施

リスクが判明した場合は、契約解除や取引停止、社内通報、外部専門機関への相談など、適切な対応策を実施します。契約書には「暴力団排除条項(暴排条項)」を盛り込み、リスク発生時に迅速に契約を解除できる仕組みを整備することが推奨されます。

6.証跡の保管と報告

定期スクリーニングの結果は、証跡として保管し、必要に応じて社内外に報告します。IPO準備企業や上場企業では、証券会社や監査法人から定期的な反社チェックの実施・証跡保存を求められるのが一般的です。証券取引所や監査法人、金融機関などから証跡の提出を求められる場合もあるため、記録の整備は不可欠です。

7.社内体制の整備と教育

運用には、社内体制の整備と担当者への教育・研修が欠かせません。コンプライアンス部門やリスク管理部門が主導し、現場担当者が「おかしい」と感じたらすぐに相談できる仕組みを構築します。

グローバル展開・海外リスク管理の現在地

グローバル化が進む中、企業は海外取引先や現地の法規制にも目を配る必要があります。国連や米OFAC、EU、英国HMTなどの国際的な制裁リストや現地の反社情報、公的機関のデータベースの活用が求められます。現地情報の信頼性に注意し、専門機関と連携することで、リスクの早期発見と未然防止が可能となります。

FAQで分かる・乗り越える!定期スクリーニングの壁

Q1. 定期スクリーニングはどのくらいの頻度で実施すべき?

A1. 一般的には年1回または四半期ごとが多いですが、リスクの高い取引先はより短い間隔でのチェックが推奨されます。業界や社内ルールに合わせて最適な頻度を選びましょう。

Q2. RPA型ツールだけで十分?

A2. RPA型は効率化に優れますが、誤検知や見落としのリスクがあります。データベース型や公式資料も組み合わせ、補完的な確認体制を構築しましょう。

Q3. 一斉チェックの際の工数削減方法は?

A3. データベース型や新聞記事データベースを活用し、参照期間を絞ることで過去の不要な情報を除外しやすくなります。運用ルールの明確化も有効です。

Q4. 海外取引のリスク管理はどうする?

A4. 現地法規制や制裁リストを参照し、現地情報に強い専門機関も活用するとよいでしょう。多国籍展開時はグローバルな視点でリスク評価が必要です。

Q5. 社内教育はどれくらい重要?

A5. 教育は属人化や運用ミス防止の基盤です。新入社員研修や年次eラーニング、実務担当者向けのケーススタディー研修など、継続的な教育が不可欠です。

リスクが現実に……報道事例からの学び

大分県内の建設業者が暴力団関係者と密接交際し指名停止になった事例(2021年4月)や、上場企業でも元社長が暴力団員に利益供与を行っていた事例(2023年6月)などが挙げられます

これらの事例で原因となっているのは、形式的に行っていた反社チェックや不十分な定期スクリーニングです。現場の担当者からは「手作業でのチェックは膨大な労力がかかる」「取引先が増えるとリスト管理が追いつかない」「情報のアップデートが難しい」といった課題の指摘も見られます。

社内体制を強化し、全社的なリスク感度を高めた企業では、反社リスクの早期発見や迅速な対応に成功している事例もあります。たとえば、定期的な研修やマニュアルの整備、現場と本部の連携強化により、契約締結前にリスクを検知し、取引を回避できたケースが報告されています。

近年ではESG投資やSDGsの観点からも、企業のリスク管理体制や反社排除の姿勢が投資家や取引先から厳しくチェックされています。定期スクリーニングは、単なる法令順守のための作業ではなく、企業の持続可能な成長や競争力の源泉となりつつあります。

スクリーニングと企業の社会的責任、そして未来

定期スクリーニングは、単なるリスク回避策ではありません。CSRや健全な経済社会の実現に向けた基盤です。企業が正しい情報に基づき取引先を選定することで、不正や犯罪の温床を根絶し、公正なビジネス環境を実現できます。

投資家や消費者、取引先からの信頼を維持し、企業の持続的な成長につなげるためにも、定期スクリーニングの徹底が不可欠です。今後は、AIやデータベースの進化、国際基準への対応、社内体制の強化など、定期スクリーニングの精度と運用体制の向上が求められます。

【参考・出典】

・西日本新聞縮刷版 2021年4月30日

・日本経済新聞縮刷版 2023年8月29日