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犯罪収益移転防止法で変わる不動産業界!現場対応・課題・実務強化の全体像

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不動産業界における犯罪収益移転防止法等の義務履行徹底は、今や経営・現場双方の最重要課題となっています。2025年6月27日、国土交通省は不動産関連の各協会に対して、犯罪収益移転防止法等の義務履行徹底を求める事務連絡を発出しました。この通知は、本人確認や疑わしい取引の届出、反社会的勢力排除、統括管理者の選任、従業員研修、IT対応、空き家対策など、具体的な実務対応ポイントを網羅しています。加えて、国際的なマネーロンダリング対策基準を策定する政府間会合「FATF」による勧告および対日相互審査への備えや判断基準の統一、IT化の遅れ、実務負担増など、業界全体が直面する課題も明らかになっています。

現場担当者は、最新の法令改正やガイドライン、ツールの活用法を把握し、柔軟な対応力を高めることが求められます。この記事では、事務連絡の内容を中心に、不動産業界の現場対応と今後の課題について詳しく解説します。

犯罪収益移転防止法とは?不動産業界が直面するリスクと義務

犯罪収益移転防止法(犯収法)は、マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与を防止するために制定された法律です。2008年3月に施行され、金融機関だけでなく、不動産業界も「特定事業者」として本人確認や疑わしい取引の届出など、厳格な義務を負っています。近年は国内外の犯罪手口が巧妙化し、FATF勧告・対日相互審査への適合が求められています。

不動産取引は高額な資金が動くため、犯罪収益の隠匿や移転が発生しやすい分野です。宅地建物取引業者は、売買契約の締結時や代理・媒介時に、犯罪収益移転防止法上の義務を負います。本人確認はもちろん、疑わしい取引が発生した場合は、速やかに行政庁へ届出を行う必要があります。

業界のリスクは多岐にわたります。顧客がなりすましや偽造書類を使い不正に取引するケース、反社会的勢力が不動産取引を通じて資金洗浄を図るケース、空き家が特殊詐欺や薬物犯罪の拠点として悪用されるケースなどが考えられるでしょう。法令順守・コンプライアンス体制の強化が不可欠なのは、これらのリスクに対応する必要があるからです。

2025年6月27日付の国土交通省事務連絡では、本人確認、疑わしい取引の届出、反社会的勢力排除、統括管理者の選任、従業員研修、IT対応、空き家対策など、具体的な対応ポイントが示されています。特に、本人確認書類の取り扱い変更(健康保険証の廃止やマイナンバーカードの利用拡大)、オンライン本人確認の導入、反社会的勢力データベースの活用、研修・教育動画の利用など、実務レベルでの対応が求められています。

国土交通省の事務連絡は、業界全体に求められる新たなコンプライアンス基準

国土交通省が発出した事務連絡は、業界全体のコンプライアンス意識を一段と高める契機となりました。事務連絡の主なポイントは、本人確認の徹底、疑わしい取引の届出義務、反社会的勢力排除の強化、統括管理者の選任、従業員研修の実施、本人確認書類の取り扱い変更、IT・デジタル対応の推進などです。

本人確認では、運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証などの書類を厳格にチェックします。顔写真付きのマイナンバーカードはA群として認められますが、顔写真がない場合はB群扱いとなり追加的措置が必要です。偽造カード対策としてICチップ情報の確認も重要であり、「マイナンバーカード対面確認アプリ」の活用が推奨されています。

疑わしい取引が発生した場合は、速やかに行政庁へ届出を行います。届出には取引内容や顧客情報の詳細な記載が求められます。

反社会的勢力の排除では、データベースを活用し、顧客や取引先のチェックを徹底します。暴力団排除条項を契約書に盛り込み、関係が判明した場合は契約解除や関係断絶を図ります。従業員への反社会的勢力対応研修も定期的に実施し、現場対応力を高めます。

統括管理者の選任は、社内のコンプライアンス体制を統括する役割を担います。法令改正や事務連絡の内容を把握し、社内教育を推進します。従業員研修では、本人確認手続きの流れ、疑わしい取引の判断基準、反社会的勢力対応の実務などを具体的に説明し、研修記録は保存します。

IT・デジタル対応では、オンライン本人確認や電子契約システムの導入が進められています。顔認証システムやAIによる不正検知技術を活用し、電子契約では契約書類の電子保存や電子署名を使います。これらは業務効率化とコンプライアンス強化に寄与します。

空き家対策では、物件管理会社や所有者は定期巡回や施錠確認、防犯設備の導入を徹底します。警察や関係省庁と連携し犯罪抑止にも努めます。

実務担当者必携!ハンドブック・チェックリスト・教育動画の活用法

現場担当者が実務対応を強化するためには、犯罪収益移転防止のためのハンドブック、チェックリスト、教育動画などツールの活用が不可欠です。「宅地建物取引業における犯罪収益移転防止のためのハンドブック」には、本人確認手続きの流れ、疑わしい取引の届出方法、反社会的勢力対応のポイントなどが詳細に記載されています。2025(令和6)年3月公表の第4版(2)では、オンライン本人確認の方法や本人確認書類の改正点を詳しく解説しています。

1.本人確認方法

本人確認方法
特徴
対面確認
原則書類原本。ICチップ情報確認。オンライン確認も可。
オンライン確認
オンライン完結。ICチップ情報確認。
偽造書類の見抜き方
ICチップ情報の活用
本人確認書類の取り扱い変更
健康保険証の廃止、マイナンバーカード利用拡大
追加的措置
B群書類は郵送による追加的措置等が必要

2.ツール・資料名

ツール・資料名
主な用途・特徴
犯罪収益移転防止ハンドブック
本人確認手続き、届出方法、反社会的勢力対応の詳細解説
チェックリスト・様式
本人確認記録、取引記録、顧客カード、疑わしい取引判定
教育動画・研修資料
制度解説、本人確認、届出、記録保存、ケーススタディー
法令改正情報
健康保険証廃止、マイナンバーカード利用拡大、分類変更
反社会的勢力対応資料
暴力団排除要領、5原則、警察庁・推進センターリーフレット
空き家対策資料
広報啓発資料、犯罪抑止策、警察連携

チェックリストや様式も重要です。本人確認記録、取引記録、顧客カード、疑わしい取引のチェックリストなど、多様な様式が用意されています。ExcelやWord形式でダウンロード可能です。疑わしい取引のチェックリストでは、取引の類型ごとに「はい」「いいえ」で判断でき、届出要否を迅速に判断できます。顧客カードはヒアリング時に活用し、ひな型規定は社内規定整備に役立ちます。

教育動画や研修資料も現場教育に役立ちます。国土交通省監修の教育動画は、制度の背景、本人確認手続き、疑わしい取引の届出、記録保存などを体系的に解説しています。YouTubeなどで公開されており、従業員が自主的に学習できます。研修資料は社内研修の教材として活用でき、レジュメやケーススタディーも用意されています。

最新法令改正の把握も必要です。健康保険証の廃止、マイナンバーカード利用拡大、本人確認書類分類変更など、法令改正は頻繁に行われています。警察庁やデジタル庁の通知、官報の改正内容を定期的に確認し、社内規定や実務フローを見直します。法令改正情報は協会ウェブサイトや関係省庁公式サイトで随時発信されています。

反社会的勢力対応には、暴力団排除中央連絡会の要領や、暴力団排除の5原則などの資料が参考になります。警察庁や全国暴力追放運動推進センターが提供するリーフレットや通知も活用できます。空き家対策には関係省庁発行の広報啓発資料やリーフレットが参考になります。

実際の事件から学ぶ!不動産業界のコンプライアンス事例

2017年、不動産企業A社が東京都内の土地取引で約55億円をだまし取られるという詐欺事件に巻き込まれました。

本人確認の重要性、反社会的勢力排除の徹底、コンプライアンス体制の強化が不動産業界にとって不可欠であることを示したこの事件を受けて、業界では本人確認の厳格化、疑わしい取引の届出体制強化、反社会的勢力データベースの活用、統括管理者の選任、従業員研修の徹底などを進めました。被害者のA社はもちろん業界全体が事件から学び、法令順守とリスク管理の重要性を再認識するきっかけになったといえます。

FAQ:不動産業界の犯罪収益移転防止法対応

Q1. 犯罪収益移転防止法の本人確認で必要な書類は?


A1. 運転免許証、マイナンバーカード(顔写真付きはA群)、健康保険証(廃止に伴い取り扱い変更)、在留カードなどが該当します。顔写真がない場合は追加的措置が必要です。

Q2. 疑わしい取引の届出はどのようなケースが対象ですか?

A2. 顧客のなりすまし、資金の流れが不自然な場合、反社会的勢力との関連が疑われる場合などが届出対象です。

Q3. 反社会的勢力排除のために実務で行うべきことは?

A3. データベースによるチェック、暴力団排除条項の契約書への記載、契約解除や関係断絶、従業員研修の実施などが重要です。

Q4. IT・デジタル対応で推奨されるツールやシステムは?

A4. オンライン本人確認、電子契約システム、顔認証やAIによる不正検知技術の活用が推奨されます。電子保存や電子署名も業務効率化に役立ちます。

Q5. 空き家対策で現場担当者が注意すべきことは?


A5. 定期巡回や施錠確認、防犯設備の導入、警察や関係省庁との連携、広報啓発資料の活用などが求められます。特殊詐欺や薬物犯罪の拠点化を防ぎます。

業界の動向と今後の課題「FATF審査」「IT化」「実務負担」

事務連絡を受けて業界各協会・団体は研修や情報共有を強化しています。全国宅地建物取引業協会連合会、全日本不動産協会、不動産協会、不動産流通経営協会、全国住宅産業協会、不動産流通推進センターなどが連携し、業界全体のコンプライアンス体制を整備しています。会員向けにハンドブックや研修動画、最新法令情報を提供し、現場担当者の実務力向上を支援しています。

FATFによる対日相互審査への備えも進められています。現時点では、2028年8月に日本の対応状況を審査する見込みです。不動産業界は、本人確認や疑わしい取引の届出、反社会的勢力排除などの実務対応を強化し、国際基準に適合する体制整備を進めています。審査に向けて協会・団体が行っているのは、会員への周知徹底、研修実施、実務フローの見直しです。

業界内では疑わしい取引の届出件数が増加傾向です。事務連絡や研修によってコンプライアンス意識が高まり、現場でのリスク感知能力が向上した結果です。一方で届出判断基準があいまいな場合や、届出件数が少ない地域もあり、業界全体で判断基準の統一が課題です。協会は届出事例や判断ポイントを共有し、現場担当者の判断力向上を図っています。

実務担当者の負担増も課題です。本人確認手続きや疑わしい取引の届出、反社会的勢力への対応など業務量が増加しています。中小規模事業者では人的・時間的リソースが限られており、効率的な業務運営が求められます。IT・デジタル対応の遅れも課題です。オンライン本人確認や電子契約システムの導入が進んでいない事業者も多く、業界全体でIT化を推進する必要があります。

空き家対策も業界の重要な課題です。特殊詐欺や薬物犯罪の拠点として悪用される事例が増加しており、物件管理会社や所有者には防犯対策の強化が求められています。警察や関係省庁と連携し、空き家管理の徹底、犯罪抑止策の実施、地域住民への注意喚起などを行っています。

今後は法令改正や国際的な審査への備えを視野に入れ、業界全体で持続的な対応力を高めることが求められます。協会・団体は会員への継続的な研修・情報提供、実務フローの改善、IT化の推進などを進めていく必要があります。現場担当者は法令やガイドラインを常に把握し、柔軟に対応する姿勢が重要です。

現場担当者へのメッセージ「コンプライアンスで企業価値を高める」

不動産業界における犯罪収益移転防止法等の義務履行の徹底は、単なる法令順守にとどまりません。企業の信頼性やブランド価値、持続的な成長のための基盤です。本人確認や疑わしい取引の届出、反社会的勢力排除、統括管理者の選任、従業員研修、IT対応、空き家対策など、現場担当者が実務で求められる対応は多岐にわたります。ハンドブックやチェックリスト、教育動画などのツールを活用し、最新情報を把握することが重要です。

不動産企業A社が巻き込まれ被害者となった事例などから学び、業界全体でリスク管理とコンプライアンス体制を強化することが不可欠です。FATF勧告・対日相互審査への備えや判断基準の統一、IT化の遅れ、実務負担増などの課題にも業界が一丸となって取り組む必要があります。協会・団体が連携し、持続的な対応力の向上を推進することが、今後の業界の発展につながります。

現場担当者は、法令改正や国際基準への適合を視野に入れ、柔軟な対応力を高めることが求められます。犯罪収益移転防止法が不動産業界にもたらす変化を理解し、コンプライアンス強化によって企業価値を高めることが、業界全体の信頼性向上につながります。

【参考・出典】

2025年6月、国土交通省「犯罪収益移転防止法等の厳正なる遵守(じゅんしゅ)について」事務連絡

2025年6月、公益財団法人不動産流通推進センター「犯罪収益移転防止のためのハンドブック」

2025年6月、全日本不動産協会公式発表

2025年6月、全宅連公式発表

2025年6月、警察庁・JAFIC公式サイト