反社チェックは国内だけ?それでは古い!海外取引で必須のコンプライアンス・チェックとは
- 反社チェック

ビジネスのグローバル化が加速する現代では、企業が海外の法人や個人と関わる機会が飛躍的に増加しています。国内取引における「反社チェック」がコンプライアンス・チェックの基本として定着する一方、海外取引における反社チェック体制は十分なのでしょうか。
海外取引で企業が関わる法人は、顧客のほかサプライヤーや販売代理店、コンサルティングパートナーなど多岐にわたります。個人では、顧客はもちろんコンサルタントや現地雇用の従業員とも密接な関わりを持つことになります。
ここで理解しておきたいのは、海外取引先への調査は国内に比べ、より広範囲になるというところです。海外の反社会的勢力(以下、反社)は、国内で認識されている枠組みでは捉えきれないほど複雑・巧妙化しています。
ところが現実には、反社チェックを国内取引と同レベルで行っていないケースが散見されます。対象が個人の場合は「外国人をチェックする方法が分からない」という理由で、必要性を認識しながらも仕方なくチェックがおろそかになることもあるようです。
不十分な反社チェック体制は、企業の存続を揺るがすリスクの入り口となりかねません。国内取引・海外取引を問わず現代の企業活動には、コンプライアンス・チェックの徹底が強く求められます。
当記事では「海外の反社チェック」というテーマで海外取引におけるコンプライアンス・チェックを深掘りしていきます。専門的な視点から、なぜ海外法人や外国人の調査が必要不可欠なのか、国内の反社チェックとは何が違うのか、具体的にどのような点に注意して調査を進めるべきかなどを解説します。
なぜ海外取引でも反社チェックが必要なのか
海外取引では、国内取引よりも範囲をさらに広げての念入りな反社チェックが必要になります。この必要性は、主に4つのリスクから説明できます。
1. テロ資金供与・マネーロンダリングへの加担リスク
国際社会が最も警戒しているリスクの一つが、通常の企業活動が反社に悪用されてしまうことです。具体的な悪用例として、テロ組織への資金供与や犯罪などで得たマネーロンダリングが挙げられます。通常かつ善意の海外取引でも、意図せず悪用に加担してしまうリスクがあることを理解しておきましょう。
とりわけ注意が必要なのは、反社が隠れみのとして使っているフロント企業です。フロント企業は、米国財務省外国資産管理室(OFAC)をはじめとする各国政府が「制裁リスト(Sanctions List)」に掲載しています。リストでほかに公開しているのは、国際テロや麻薬取引、大量破壊兵器の拡散に関わっているとされる組織・個人をはじめ、特定の国や地域の政府関係者などです。
制裁リストに載っている企業と知らずに取引しても、重大なコンプライアンス違反になります。場合によっては多額の罰金を科されるだけでなく、米国金融市場からの締め出しなど、極めて厳しいペナルティーにつながりかねません。
「知らなかった」では決して済まされないリスクといえるでしょう。
2. 各国の贈収賄防止法への抵触リスク
企業が海外の法人や個人と関わる中では、現地の公務員への賄賂がその国の法律上、問題となるケースがあります。
法律上、特に注意が必要なのは「域外適用」です。米国の海外腐敗行為防止法(FCPA)や英国の贈収賄防止法(UK Bribery Act)などが適用されるのは米英国内の企業だけではありません。米英の証券取引所に上場している外国企業や、米英の領域内で事業活動の一部を行っている企業にも適用されます。
例えば、米英の国内で代理店やコンサルタントが公務員に賄賂を渡した場合でも、これらの法律を適用し、当局が日本など外国の企業を摘発する可能性があります。
自社を海外の法律リスクから守るためにも、海外の法人や個人の事前調査は必須です。具体的には、贈収賄で摘発された経歴や公務員との不適切な関係の有無などを調査します。
これらの調査が寝耳に水の域外適用など思わぬリスクの回避につながります。
3. グローバルなサプライチェーンにおける人権・環境リスク
取引先が人権や環境に関する国際的な規範を遵守しているかの確認は、企業の社会的責任(CSR)の一環として必須です。SG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大などを背景に近年は、国内外にかかわらず厳しく問われるようになってきました。
取引しているサプライチェーンの一つが強制労働や児童労働といった人権侵害や深刻な環境破壊に関与していることが発覚しただけでも、自社のブランドイメージは大きく傷つきます。
とりわけ人権面では、表面には出にくいサプライヤーの内部体質も問題視されます。人権デューデリジェンス(人権審査)という言葉が叫ばれるようになりつつあるのもご承知の通りです。
海外の企業や個人がはらむ人権・環境リスクには、国内以上に注意を払い、チェックする必要があります。
4. 企業のレピュテーションを保護
以上3つのリスクが最終的に直結するのは、企業のレピュテーション(評判)です。グローバルなニュースは瞬時に世界中に拡散します。海外の取引先による不祥事が、自社の名前と共に報じられれば、顧客や投資家の信頼を失うでしょう。海外取引におけるコンプライアンス・チェックは、法的な要請であると同時に、自社のブランド価値を守るための重要な防衛策です。

「反社会的勢力」の海外版とは?注意すべき組織や個人
国内の反社チェックでは「暴力団関係者」を主な対象としますが、海外ではより多様なリスク要因に基づき、反社チェックを行う必要があります。
1. 各国の制裁リスト掲載者
米国財務省外国資産管理室のほか、EU、英国、国連などが発表している「制裁リストに掲載されている個人や団体(Sanctioned Entities/Individuals)」は、取引が厳しく制限・禁止されています。これらは国際社会における「取引してはならない相手」の公式リストであり、海外チェックの基本中の基本となります。
2. PEPs
PEPsは「Politically Exposed Persons」の略で、現職・元職を問わず、政府の重要な地位にある人物とその家族、近親者など「重要な公人」を指します。具体的には、政治家や政府高官、司法関係者、軍幹部などです。
取引先の役員や取引先の実質的支配者がPEPsに該当するかどうかは、贈収賄リスクを管理する上で、特に重要なチェック項目です。一般人に比べPEPsは、地位や影響力を利用して汚職や収賄に関与するリスクが高いとされているからです。
金融機関などを中心に、PEPsとの取引には通常より厳格な審査(デューデリジェンス)を行うケースが見られるものの、海外取引で関わる個人がPEPsであること自体は問題になりません。PEPsそのものを問題視しないよう注意が必要です。
3. 現地マフィア・犯罪組織
海外には、合法的なビジネスを装ってフロント企業を経営し、資金洗浄や違法活動を行う組織が見られます。イタリアのマフィアや中国の三合会、ロシアのロシアン・マフィアなどです。
海外取引で関わる法人や個人が、こうした組織に関与していないかをその都度、見極める必要があります。現地の報道や警察情報を注意深く確認しましょう。
4. ネガティブな報道の当事者
海外取引で関わる法人や個人が、ネガティブな報道(Adverse Media)の当事者になっていないかも重要なチェックポイントです。
たとえ制裁リストや犯罪者リストに載っていなくても、ネガティブな評判を持つ法人や個人との取引は、自社のレピュテーションを損なう潜在的なリスクをはらんでいます。
金融犯罪や贈収賄、人権侵害、環境破壊、各種の不正行為などでメディアに報じられた経歴の有無を調査しておく必要があります。

海外法人・外国人の調査における特有の課題と調査方法
海外のコンプライアンス・チェックは、国内の反社チェックとは異なる特有の難しさがあります。
1. 特有の課題
言語の壁
調査対象となる報道記事や公的記録は、当然ながら現地の言語で書かれています。正確な情報を把握するには、高度な語学力が必要です。
法制度・商慣習の違い
法人の登記情報や役員情報をどこまで公開しているかは、国によってさまざまです。情報の取得方法やその解釈には、現地の法制度や商慣習への理解が欠かせません。
情報の散在
日本のように一元的なデータベースが存在しない国では、求める情報が政府機関や裁判所、メディアなどさまざまな場所に散在することになります。網羅的な調査には手間とコストがかかります。
2. 主な調査方法
特有の課題を乗り越えるため、一般的には以下のような方法を用います。
公的機関が公開する情報の確認
公的機関がオンラインで公開している情報を直接確認する方法です。各国の法人登記簿や裁判所のデータベースなどが挙げられます。ただし特有の課題で説明した通り、言語や法制度の壁が意外に高く立ちはだかるのが実情です。これらの情報の確認は、もっぱら補助的な手段という位置付けです。
グローバルなデータベースの活用
最も効率的かつ一般的な方法が、専門のデータベース・ツールの活用です。これらのツールは、制裁リストやPEPsリスト、犯罪情報、ネガティブな報道などを世界的・網羅的に収録しており、企業名や個人名で検索するだけで、瞬時にスクリーニングします。導入コストはかかりますが、グローバルに事業展開する企業にとっては必須のインフラといえるでしょう。
現地の専門家との連携
より深度のある調査が必要な場合には、現地の信用調査会社や法律事務所、コンサルタントなど専門家に調査を依頼します。たとえば、M&Aの際のデューデリジェンス(審査)や取引高が特に高額となるとき、リスクが高いと判断される国での取引などです。専門家は現地の言語や法制度、情報源に精通しています。データベースを活用しても得にくい詳細な情報を入手できる可能性があります。

油断しない・おろそかにしない。コンプライアンス・チェックは国際社会も求める重要なプロセス
テロ組織への資金供与やマネーロンダリングなど国際的な金融犯罪を防ぐため、各国の法制度や運用体制を評価・監督する政府間組織FATF(金融活動作業部会)で日本は、これまで4回の相互審査で課題を指摘されてきました。現在も「重点フォローアップ国」として継続的な改善が求められています。
FATFの評価は国際金融取引や投資に大きな影響を与え、リスト掲載国は金融制裁や国際的な信用低下のリスクがあります。今後の第5次審査では、制度の実効性や企業のリスク管理体制がより厳しく問われる見通しです。
ビジネスのリスク管理において国境はありません。海外の取引先に対しても、その国や地域の特性に応じた適切なコンプライアンス・チェックは当然の責務といえます。
海外の法人や個人と関わる企業の一つ一つが国内取引時と同様の反社チェックを油断なく行うとともに、外国人チェックをおろそかにせず行うことは、国際社会の求めにもかかわる重要なプロセスとして、もはや不可欠です。