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不動産売買の現場で求められる外国人チェック。「知っておきたい」取引のポイントとは?

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近年、日本の不動産を購入する外国人が増加しています。特に都市部を中心に、居住用や投資用としての需要が高まり、市場における外国人買主の割合も上昇しています。不動産業者は外国人の取引に対応するだけでなく、契約前後のリスク管理も重要です。特に、買主の信用確認や適法な取引であるかのチェックは、トラブルを未然に防ぐために欠かせません。

例えば北海道倶知安町では、中国系業者とされる不動産会社が、羊蹄山麓の約60ヘクタール(東京ドーム13個分に相当)の土地を2019〜2025年にかけて集中的に取得し、その一部を中国企業や中国籍の個人に転売していたことが報じられています。開発の名目で、不許可のまま森林法など複数の法律に違反して約3.9ヘクタールの森林を伐採し、建築物の施工も開始され、道から工事停止の勧告が出される事態となりました。

このように、外国人による大規模な土地取得と違法な開発行為は、環境破壊や地方自治体の統制を乱すリスクをはらんでいます。また、水資源や森林など地域固有の自然資源が脆弱になる可能性も指摘されており、法制度の不備がこうした動きを防ぎにくくしている点も問題になっています。

こうした動きも背景に、政府は外国人による土地取得を制限する議員立法案「外国人土地取得規制」の議論を進めています。この問題は、2025年7月の参議院選挙でも大きな争点となりました。また、重要な土地の利用状況を調査する法律「重要土地等調査法」はすでに制定されており、不動産業界に一定の影響を与えています。

今回は、外国人の不動産売買におけるリスクと対応、そして近年注目される法制度との関連について整理し、不動産業者が押さえておくべきポイントを紹介します。

外国人の不動産購入ニーズはなぜ高まっているのか?

外国人による日本の不動産購入が増加している背景には、以下の理由が挙げられます。

1. 安定した資産価値と高い利回り

日本の不動産は政治・経済が安定しており、資産価値が比較的安定していると考えられています。特に都市部のマンションは、アジア主要都市と比べて購入価格が低く、かつ高い利回りが期待できるため、投資先として注目されています。

2. 外国人でも購入しやすい環境

日本では外国人も日本人と同様に不動産を所有できるため、参入のハードルが低いという特徴があります。そして「宅地建物取引業法」により不動産取引のルールが明確に定められており、取引の透明性や安全性も確保されています。また、住宅ローンの利用も可能で、低金利が資金調達を後押ししています。

3. 円安による割安感

円安の進行により、日本の不動産は海外から見ると割安です。特に海外の富裕層にとっては、為替差益を活かして優良物件を有利な条件で購入できる機会となっています。

4. インバウンド需要の増加

訪日外国人観光客や長期滞在者が増加しており、観光地や都市部では外国人向け宿泊施設や住宅の建設が拡大しています。これも不動産投資需要を高めている要因です。

外国人との不動産売買における基本ルール

ここでは、不動産業者が外国人との不動産売買で押さえるべき基本ルールを整理します。

1. 契約書は日本語

国土交通省の国際対応マニュアルでは、売買契約書や重要事項説明書は日本語を正本とすることが基本とされています。トラブル防止のため、契約書に「専属的合意管轄裁判所は日本の裁判所」と明記することが望まれます。日本での裁判はすべて日本語で行われるため、媒介契約書なども同様の取り扱いとし、外国語訳は参考資料として添付するのが適切です。

2. 相手国の文化や生活習慣を把握

外国人との不動産売買では、相手国の文化や生活習慣を理解することが重要です。多くは代理人を通じて交渉しますが、相手国の不動産関連法や投資政策を把握しておくと、スムーズな取引と誤解防止に有効です。情報収集には、日本貿易振興機構(JETRO)や国土交通省の海外市場データベースが活用できます。

3. 取引通貨は日本円

外国人との売買契約では、取引通貨を日本円とするのが基本です。これにより為替変動による損失を防ぎ、会計や税務の手続きを円滑に進められます。高額取引では為替リスクの影響が大きく、契約時に双方の合意を得ておくことが重要です。為替相場は日本銀行の公表資料で確認できます。

4. 通訳は買主側が手配

宅地建物取引業法では外国語での重要事項説明は義務ではありません。売主側が通訳を用意すると誤訳等への責任を問われる可能性があるため、原則として買主側が手配します。また、通訳者にも説明書・契約書への署名を求めることで、後日の紛争を防止できます。

5. 内覧なし購入は避ける

外国人の買主の中には、現地を見ずに購入するケースもありますが、契約後の「想像と違う」トラブルの原因となります。契約前に本人による内覧を強く推奨し、来日できない場合はオンライン内覧や動画で詳細を確認してもらうなど、事前説明を徹底することが重要です。

外国人との契約時に注意。事前に確認すべき3つのポイントとは?

外国人との不動産売買におけるトラブルを減らすためには、以下の3つのポイントをしっかり押さえることが重要です。

1. 本人確認書類の厳格なチェック

外国人との不動産売買契約では、顔写真付きの本人確認書類の提出が必須になります。具体的には、パスポートや在留カード(旧外国人登録証)のコピーに加え、就労ビザなどの在留資格の種類や有効期限を確認します。そして、契約期間と滞在期間の整合性を確認し、所有権移転後の適法な居住・資産管理が可能かどうかも見極めることが重要です。

2. 代理人・納税管理人の設置

外国人の買主が日本に不在の場合でも、取引の安全性と円滑な進行を確保するために、「代理人・納税管理人」の設置が必要です。代理人は契約手続きの代行を担当し、納税管理人は固定資産税などの税務対応を行います。こうした体制を整えることで、手続きの遅延や税務トラブルを防ぎ、安心して取引を進められます。

3. 契約内容の事前説明

契約条件や手続きの流れは、誤解が生じないよう明確に説明することが欠かせません。売買価格や支払いスケジュール、手付金の額と扱い、引き渡し日、固定資産税など諸費用の負担区分といった項目は細かく共有する必要があります。

日本特有の「手付解除」や「契約不適合責任」などの制度は、外国人にとって馴染みが薄く内容が難しいため、専門用語を避け分かりやすい表現で伝えることが求められます。

マネー・ローンダリングの対策。不動産が悪用される可能性も?

マネー・ローンダリング対策の必要性は、外国人との不動産売買において一層高まっています。不動産が不正資金の温床となるリスクを踏まえ、より厳格な顧客確認が必要とされています。不動産売買におけるマネー・ローンダリングの典型的な流れは以下の通りです。

1.不正資金を持つ人物が、他人の名義を使って不動産の売買契約を結ぶ

2.売買代金の形で不正資金が名義人に送られ、資金の出どころを隠す

3.最終的に不正資金の持ち主が不動産の所有権を取得し、その資産を合法的に見せかける

こうした手口を防ぐため、不動産業者は契約時の本人確認や在留資格のチェックはもちろん、資金の出所や購入目的の合理性についてもチェックする必要があります。さらに「犯罪収益移転防止法」に基づき、不動産業者にも顧客確認義務があり、適切に対応しなければ法的責任や企業の信用失墜を招く恐れがあります。

外国人土地取得規制とは?不動産業者も無関係ではない

外国人の不動産売買が増加する中で、政府は国家の安全や防衛上の観点から、外国人による土地取得を制限する動きを強めています。その代表例が「外国人土地取得規制」です。

外国人土地取得規制とは、日本の安全保障や国土保全を目的に、外国人による土地購入を制限する法律です。対象は当初は特定地域に限られていましたが、近年は重要インフラや防衛関連の土地も含まれるなど規制が強化されています。

▼外国人土地取得規制の議論と法整備の流れ

2020年12月
政府の専門家会議が報告書を公表。遠隔離島や防衛施設周辺などでの外国人土地取得に対する法整備の必要性を指摘。

2023年5月
国民民主党が「外国人土地取得規制法案」を参議院に提出。包括的な規制を盛り込む。

2024年12月
法案を修正し、日本維新の会と共同で衆議院に再提出。

2025年8月時点
法案はまだ成立しておらず、審議が継続中。

今後は、安全保障の確保と外国人投資の促進という双方のバランスを取ることが、政策運用の大きな課題となっています。不動産業者にとっても、この規制は無関係ではありません。取引対象となる物件が規制区域に該当する場合、契約前の確認や、買主への説明義務が発生します。特に土地の所在地や用途制限に関する最新情報を把握することが、取引の安全性を確保するうえで不可欠です。

重要土地等調査法が不動産に及ぼす影響とは?

こうした外国人土地取得規制の議論に加え、政府は「重要土地等調査法」による土地の売買や利用状況の調査も進めています。

重要土地等調査法とは、国の安全保障や公共の利益を守るため、政府が指定した重要土地の売買や利用状況を調査する法律です。外国人の土地利用も重点的に監視し、不適切な取得や利用を未然に防ぐことで、地域の安全強化を目的としています。

特に不動産売買においては調査の対象となるため、不動産業者は細やかな対応と法令遵守が求められます。

1. 調査対象の土地

  • 政府が指定した特定区域の「重要土地」が対象。
  • 防衛施設周辺、国境離島、河川や水源地など、安全保障や公共インフラ保護に関わる土地が含まれる。

2. 主な調査内容と手続き

  • 売買や賃貸契約時に所有者や賃借人の情報を行政に報告する義務がある。
  • 調査には登記情報や契約書類の提出のほか、聞き取りや現地調査も含まれる。

3. 調査・報告義務違反の罰則

  • 調査や報告を怠ると行政指導や勧告の対象となる。
  • 重度の違反は過料や罰金などの法的制裁を受ける可能性がある。

重要土地等調査法は不動産売買の現場に直接影響を及ぼします。対象区域の物件を扱う場合は法令を正確に理解し、適切な手続きと説明を徹底することが不可欠です。今後も規制の強化が予想されるため、最新の法令情報に注意を払うことが重要です。

問題を見逃さない。外国人チェックは安心を守る重要なプロセス

外国人による不動産売買はニュースや政府の議論で頻繁に取り上げられており、不動産業界にとっても重要なテーマとなっています。単なる取引を超えた「複雑な課題」をはらんでいるのが、外国人の不動産売買です。多様な価値観や背景を持つ当事者が関わるため、丁寧なコミュニケーションが不可欠となります。

また、法的なルールを守ることはもちろん、信頼性を確保するための体制づくりが求められています。外国人チェックは「安心して暮らせる環境を守る」ための重要なプロセスです。変化する社会情勢を見据え、的確に対応することが安心な社会づくりの一歩となります。

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